時計の針は15時になろうとしていた。
四季は家に帰って来ると外に出かけた。
意識的に歩くことを大事にしていると体調が良くなるのである。
ピアノや楽譜に長時間向き合っていることが多いと、気温が低い季節は気づかずに身体が冷えてしまっていることが多いのだ。
(由貴、何時頃に帰って来るんだろう)
由貴が四季の家に来てくれることは多いが、しばらく由貴の部屋は訪れてないなと思った。
由貴は生徒会の仕事も抱えているし、涼と過ごす時間も作ってあげたいし、それで最近は由貴の家に行くのを遠慮していたのだが。
隆史への話もあるし、四季は由貴の家の方角に歩き始めた。
昨日の夜、庭で響いていた丘野樹と高遠雛子の歌が夢のように思い出された。
それから今朝、庭で歌っていた忍の歌声。
忍に言わせると、四季の家の庭は歌うのに気分のいい場所なのだという。
言われてみて、そうかもしれない、と思った。
(いい歌を聴いていると、それまで悩んでいたことが何だったのだろうと思えてくる──)
忍のことを傷つけた、高遠雛子の歌声も。
雛子は雛子なりに音楽を愛しているのだろうということは、その歌から伝わってきた。
(目には目を、とは思わないけれど)
被害が及べば見合った報復をという考え方もあるが、それは状況にもよるだろう。
この場合、雛子を忍と同じだけ傷つけたとしても、お互いに目に見えない傷口が広がるだけのような気がした。
それに、忍の性格を考えたら、忍自身が雛子にそれを望むとも思えない。
(これ以上、忍に傷をつけるなら、僕が高遠さんの頬を叩くとは言うだろうけど)
四季は静かな心持ちでそんなことを考えた。
由貴の家に着くと、まだ誰も帰っていないらしく、鍵がかかっていた。
四季は由貴が鍵を隠している場所から鍵を持って来ていたので、玄関から入った。
こういう時のために、と由貴が四季に鍵の隠し場所を考えてくれたのである。
しん、と静まりかえった由貴の家は四季にはなじみのある場所でもあり、それでいてほんの少し緊張感を伴う場所でもある。
そのバランスは心地いい。


