ピアノの上に置いている楽譜をさっと見て、迷いなく選び取ると、四季は練習曲を弾き始めた。
時々その日の気分で弾きたい曲から弾く場合もあるが、指が温まっていないと滑らかな動きにならないため、基本は練習曲から弾くのである。
あるいは最初に弾きたい曲のCDを聴くのでもいい。
ピアノがある程度弾けるようになると、音を聴いているだけでも運指の訓練になっていたりするのである。
無意識に手が反応して弾いている時もあるし、音のイメージがきれいに出来ている時は、身体の中に楽譜が存在するかのように、手がついてくる。
昨日十分に練習時間が取れなかった分、手は正直で、弾いていてもつれている感覚がついてきた。
音は出ているが、打鍵した時にそういう感覚があるということは、全部の指の強さが同じには訓練されていないということだ。
(違うな)
違和感を感じた旋律はリピートをつけて、何回か繰り返す。速度を落としたり、速めたり。出来ると感じたら、機械的に、または情感的に。
楽譜によっては運指が合わないものもあり、それは何通りかの弾き方で試してみる。
いつも弾いている練習曲は、そのうち、後に弾きたい曲につながるものになってゆく。
ハノンなどはそうで、今はもう指が覚え込んでしまった旋律を、驕らずにきちんとおさらいをしていると、ともすると単調なものになってしまうことのあるものから、新しい価値を見い出すことも往々にしてあるのだ。
同じ練習曲を何回か弾いているとあとはどれくらい弾いているのかわからなくなって、動きの型を手が覚え込んでしまうから、似ているような旋律で違う運指の旋律を弾こうとすると、今度は手が転びそうにもなる。
その違う運指パターンの練習曲も、四季は淡々とこなしてゆく。
練習曲は最初は情感を込めずに、まず音を的確にクリアに弾くことを四季は大事にしている。


