「四季は私の歌がいいの?」
忍には自分の歌がわからない。自分では、自分なりの歌を歌っているだけなのだが、四季にはどう聴こえているのかはわからないのだ。
四季は「忍の歌がいい」と答えた。
「忍から聴こえてくる音楽は、美しいもの、心を揺り動かすもの、感受したものの中から、よいものを選ぶ本能と、大切にすべきもの、歌い上げる喜びを知っている。だから忍の目に、今、僕が映っていることが嬉しい」
端麗な忍の面差しに白い花が開くように微笑みがこぼれる。
「美しい音楽を私は知っている。私は心に響いた音を私なりに美しく奏でているだけ。四季に私の音楽が美しく聴こえるなら、私も嬉しい」
人は人それぞれに感受性が違うという。──が、どれくらいか、同じように感じる感受性があるとしたら──好きな人と同じように美しいものや幸せに感じるものを受け止められるとしたら、それは嬉しい。
この世界に個として生まれてきて、でもそういうもので繋がることが出来るなんて。
四季は忍の唇の傷に触れないように、もう一度頬にキスして、言った。
「忍、不安だったのは消えた?」
忍は四季のぬくもりに触れて、この上ない表情を魅せる。
「うん。──四季」
「何?」
「大好き」
それ以上にどう言っていいのかわからないくらいに。
四季は少し恥ずかしそうに、ふっと表情をゆるめる。
忍も控えめに──痛みを堪えて四季にキスをする。
「おやすみなさい。今日はもうゆっくり休んで。明日早起き出来たら、話しよう?」
「──そうだね」
お互いの心に、もう、音楽が響き初めている。相手を愛しく想う心が、音楽になって。
それは少しずつあたためた方がいいように思われた。
別れがたく離れて、四季と忍はそれぞれ自分の部屋に戻る。
気持ちは昂っていたが疲れてはいたため、四季は横になるとすぐに寝ついてしまった。忍は傷ついた気分を切り換えるように四季の言葉を思い出し、眠りについた。
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