隆史は由貴と四季の言葉に苦笑した。

「そこで由貴くんと四季くんに気遣われると、気がひけますね。逆に生徒に気を遣わせているみたいで」

「気を遣っているというより、ただそう思うだけだよ。相手の苦労を考えられる関係があるっていう。苦労させているなって思う相手には出来るだけそのことで苦労させないようにはしようと思うし」

「由貴くんたちはいい子ですよ。世の中には、人に苦労させているとわかっていて、さらに苦労をかけようとする人間もいますからね」

 由貴は顔をしかめる。

「それ何?何処の人間関係の話?」

「何処というわけでもないです。…さて、帰りましょうか」

 さらりとしたポーカーフェイスで、隆史は車の鍵を指先にかけて鳴らした。

 由貴は隆史が仕事での愚痴をこぼしている姿を見たことがほとんどない。学校の隆史の雰囲気は家でもほとんど変わりがないのだ。

 時々疲れているのかな、と感じることはあるが、そういう時は「ちょっと外に出ますね」とふらりと出て行って、一杯飲んで帰ってくる。

 それでも泥酔している姿を見たことは一度もない。

 見事な親バカぶりを発揮している隆史だが、こういうところは、かつて、学生時代に「優等生」だった綾川隆史のままなのだ。

 そしてそれは「優等生」に育った由貴に似ている。

 隆史は四季の頭に手をやる。180はある長身の隆史には四季も由貴も、ふたりが子供の頃と変わらない目線が残っているようで、優しく撫でた。

「おやすみなさい、四季くん」

「…おやすみなさい」

 四季は微笑みを浮かべる。

 祈が隆史に声をかけた。

「隆史くん」

「ん?」

「白王の文化祭の日、空けておいて。僕、その日お休み」

「めずらしい。わかった。空けとく」

 普段見られないような種類の隆史の笑顔に、忍が意外なものを見たような表情になる。美歌がくすりと笑った。

「パパたち、仲良しなの。未だにつるんでいるのよ」

 祈が幸せそうに言った。

「四季と由貴くんも早くお酒が飲めるようになるといいよねー」

「あー…。うちの由貴くんはどうかなぁ。僕が飲んでるの、美味しい?って聞くから、試しにちょっと飲ませてみたら、顔赤くなっちゃってね。弱いのかなぁ。うち、由真ちゃんがお酒弱かったから」