忍は美歌の視線を受け止めると、雛子に言った。
「高遠さん」
雛子は強気な表情で忍を見る。忍は端的に伝える。
「私は四季に幸せでいて欲しい。私も幸せでいたい。でも、高遠さんにずっと、四季のことが好きなのって言い続けられると、困るの」
忍は抑揚をつけず、さらさらと語った。風の音か、川のせせらぎかのような、そんな声の調子だった。
それは雛子のような人間には、到底理解し難いものだった。何故そこまであっさりと出来るのかが雛子にはわからない。
雛子には忍の感情が見えなかった。
忍は言葉を続けた。
「高遠さん、今、私のこと理解出来ないって、そう思っていると思う。自分の思い通りにならないことがある時、人はそう思うものなのかもしれない。でも、みんなで思い通りにならないことを『どうして?』とか自分を受け入れてくれるように口々に言い始めたら、もう、この世界は誰にもどうすることも出来なくなってしまう」
「──つまり、何が言いたいの?」
「私は四季の彼女なの。四季が私を選んでくれて、私も四季を選んでくれたから、高遠さんの気持ちは四季には受け止められないの。それでも気持ちを受け止めてってずっと言い続けるのって、その先に高遠さんは何を求めているの?もうそれ以上どうにもならないことなのに、ずっとこのままなのは、私はつらい。それでも言い続けるだけなの。ただ、そうしていたいだけなの?」
想いを受け止めてくれる相手のいない恋心には終わりがない。ぐるぐるぐるぐる、ひとりだけ、いつまでも、空回り。
由貴に片想いをしたことのある忍だからこそ、言うことのできる言葉かもしれかった。
「恋心に終わりはないの。それは両想いになって後もそう。相手に対して思い通りになって欲しい気持ちをぶつけるだけしか出来ないなら、それは誰に恋をしても、相手を傷つけるか疲れさせてしまうだけの結果しかない。自分の気持ちが抑えられて、相手を思いやれる気持ちが育たない限りは、恋を本当の意味で大事にすることも出来ないの。だから私は由貴のことを好きだった時の気持ちは、自分の意志で終わらせた。そうすることが、本当の意味で自分が好きになった人と、自分のことを大事にすることが出来ると思ったから」


