一方、高遠雛子の方は四季の家の客間に通されても高遠雛子なのだった。
由貴は雛子と顔を会わせているのも嫌であるらしく、同じ部屋にいるのにまったく目を合わせようともしない。
隆史は隆史で、隆一郎に勘当されてから綾川の家の敷居はまたいだためしがなく、他所の家に来たかのように居心地悪そうに座っている。
忍はどうしていいのかわからず、由貴と隆史と雛子との間にいる感じだ。
…気まずい。
お茶を運んできた美歌が、部屋に入るなり、ため息をついた。
「由貴お兄ちゃん、隆史おじさま、忍さん、それと高遠雛子さん。何事なの?美歌、こんな変な空気に出会うの初めてだわ」
雛子が美歌の美貌を凝視した。美歌はつい、と興味もなさげに言葉をこぼす。
「忍さんに傷をつけるなんてことをしておいて、よくこの綾川の家にあがれたものね。お兄ちゃんがお兄ちゃんでなかったら私が叩き出しているところよ」
恐ろしく冷たい。雛子も美歌に言葉を返した。
「それくらいしなければならないくらいお兄様が想われていることを嫉妬しているの?綾川四季の妹も大変ね」
──寒い。
忍はここまで寒いと普通の感覚も通り越して、四季の彼女はこれくらいのことに動じていたらダメなのね、と静かに思考していた。
由貴がぽつりと言う。
「美歌ちゃん、この女と話していると精神衛生悪い。話さなくていいよ」
隆史もお手上げといった感じで言った。
「先生、高校生の恋愛、甘く見てました。というか、話すならお互いの罵倒に終始する展開ではない方向性でお願いしますね」
忍はお茶を飲んでふわりと呟いた。
「──お茶、美味しい」
美歌が忍をちらりと見た。
忍は茶碗を両手で優しく揺らし、お茶を見つめている。
こんな状況なのに何というのか優雅である。
「──忍さん」
美歌の呼びかけに忍は悠然と微笑んだ。


