時は今




「周りの人のことを考えてってこと?」

 由貴は愛想のない物言いになってしまう。

 四季が雛子に対して感情的になることがないのは、四季本人の優しい気質もあるのだろうが、それ以外に理由があるとしたら、それだけだ。

「それなら、高遠雛子が傍若無人な振る舞いをしていても、周りの人間は服従していろってこと?忍も四季も傷ついているのに?」

 隆史もこのままではいけないと案じている様子でもあったが、一旦そこで話をやめた。

「由貴くん、このことについては、後で話しましょう。高遠さんも今日は色々あったようですから」

「──」

 車はゆっくり音楽ホールのそばに停まる。四季たちの姿が見えたのだ。

 先日試験勉強の時に乗った車なので、四季と忍の他に雛子と真白がいても、十分に乗れる広さはあった。

 隆史の車が来ると言うので、雛子もそれまではおとなしかったが、由貴の姿を見るなり、顔をしかめた。

「…何であなたがいるのよ」

 由貴は冷たい視線を投げてよこした。

「俺が心配しているのは四季の方だよ。こんな時間まで外を出歩いて四季を振り回して楽しいか?四季が体調でも崩したらどうするつもりなわけ?」

「由貴」

 四季が静かに制した。

「僕の体調は僕がわかる。高遠さんは意図的にそうしたわけじゃない。──真白も」

 さすがに由貴の考えていることは四季には読めるようだった。

 抱きかかえられた真白の顔は外灯の下に青ざめて見えた。

 忍は何も言わない。表面的には穏やかだが、目に見える傷よりも内面的な傷の方が大きいかもしれない。

 由貴は忍に声をかける。

「忍。大丈夫?」

 忍はその言葉で我にかえったように由貴を見た。

「うん。大丈夫」

 由貴は四季が言えないであろう分の気持ちを言葉にする。

「あまり心配しないで。四季が好きなのは忍だから」

 雛子に聞こえないようにそっとそう言うと、離れて行った。

 忍はそう言われて、少し胸の奥のもやもやが軽くなった。



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