時は今




 真白はきゅっと携帯を握りしめた。ストラップが揺れた。

 綾川四季に出会えたことを無意味なものにはしない。四季からもらったものは、もっと目に見えない、強いものだ。

 たとえば、人ひとりの心を真っ直ぐに導く、愛する心。他者を大事にしようとする想い。

「色々な生き方があるのね」

 雛子は自嘲的に言った。

「私は、あなたのような綺麗なことは言えない。欲しいものは全部手に入れたい。私自身も輝きたい。──でもきっと、それは叶わないこともあるの」

「欲しいもの──」

「四季くんよ。その言葉の通りよ。私、嫉妬して、揺葉忍の唇、かみ切ってきたの。…そしたら、四季くん、傷ついた顔、してた」

 真白はどんな顔をしていいのかわからず、穴が空くように雛子を見てしまう。

 雛子は強気で言い切った。

「でもいいの。私にはそうする以外に気持ちの収まりがつかなかったの。四季くんが揺葉忍のことを好きでも、私は四季くんに私のことを見て欲しい」

 その時、もうひとつのソプラノの声がふたりの間に届いてきた。

「──そこにいるの、高遠さん?」

 夜風にふわりと白いコートが翻る。揺葉忍が雛子と真白を見つめていた。

「揺葉さん?」

 雛子の言葉に、どくん、と真白の鼓動が大きく波打つ。

(この人が揺葉忍──)

 四季の好きになった人。

 こんなに急に、間近に見るのは初めてだった。

 言い様のない感情がぐるぐる回りはじめる。

 胸が苦しい。

「……っ」

「──!?木之本さん!?」

 真白の細い身体がふわりと傾いだ。

 雛子が片腕で真白を支える。忍も驚いて、雛子のそばまできて、尋ねた。

「…大丈夫?」

 雛子はわからないというように首を振った。