時は今




 雛子は肯定するでもなく否定するでもなく、真白から少し顔を逸らした。

「あなたは?」

「…え?」

「泣いていたんじゃないの。四季くんのことで」

 真白はそこで言葉を失ってしまう。

 雛子は静かに言葉を続けた。

「綾川由貴、えらそうな口をたたくだけあって、それなりのことはしているのよね。あなたが四季くんのそばにいられなくなった時、最後まで四季くんのそばについていたのは綾川由貴だったから。四季くん自身が、『死なせて』って言った時、支えたのは紛れもなく綾川由貴なのよ。だからそういう意味では私、あの男に感謝はしているの。私がもし四季くんにそういうこと言われたら、どう支えたら『生きたい』って思ってもらえるのかわからないから」

「……」

「あなたのこと責める子がいたことも、私、知ってるわ。四季くんがいちばんつらい時に見捨てるような女なんて最低、とか。私も初め、そう思ったの。でも、私も四季くんを支えられていないということは、私も見捨てている人間と何も変わらないじゃない?──最低、って思うなら、四季くんを支えられることが出来てから言ったらっていう話なのよ」

 雛子は真白を真っ直ぐに見た。

「少なくとも、木之本真白なんて最低、って集団で言ってた子たちより、私はあなたのことを評価してる。だって、あなたは言い返さなかったもの。私、すぐに悔しくなって言い返してしまうから、あなたみたいに受け止められる子、すごいと思うもの」

 真白は、自分を戒めるように緊張した面持ちになった。

「私は、私を許せないだけ。他の人がどう思うかは関係ないの。もし自分が生まれ変われるなら、先輩のような人を守れるような人間でいたいと思うだけ。先輩と私の行く道が、この先交わることがなかったとしても」