時は今




「何なの、その、人のことを取って喰う人間でも見るみたいな目」

「……」

 真白は言葉を失って、雛子を呆然と見ている。

 雛子は真白が震えていることに気づいた。

「何?本気で怖がってるの?あなたそれでよく四季くんの彼女でいられたわね」

 四季の──。

 条件反射のように、真白の瞳から涙がこぼれ落ちた。

 雛子は「ちょっと」と困ったように言う。

「何で泣くのよ。私が泣かせてるみたいじゃない」

「ご…ごめんなさ…」

「怖がることないわよ。…来て。人が見てるわ」

 雛子は真白の手を引き、歩き出した。

 強引──というほどでもない。アンダンテの速度。

 引いてくれる手が意外に優しいもののように感じたので、真白は雛子に手を引かれるまま歩き出した。

 雛子は歌っていたステージの客席に座る。真白もそのとなりに座る格好になってしまった。

 雛子は真白の兄の木之本秋人とは比較的よく話すが、真白とはほとんど話したことがない。

 たまたま接点が少なかったのもあるのだろうが──。

「私、秋人くんとはわりと話すんだけど。あなたとはあまり話したことないから、興味があったの。というより、あなた、私のこと避けてるの?」

 遠慮のない口振りで雛子は訊いてきた。その通りだったので、真白はこくりと頷く。

「──高遠さん、四季くんのこと好きだよって、みんな言ってたから、怖くて。…ごめんなさい」

「何で謝るのよ。ムカつくわね。私、揺葉忍にも怖がられてるみたいだし。四季くんが好きになるような子には、私、怖がられる運命か何かなのかしら」

 ひと息にそう言って、雛子は疲れたように空を見上げた。

 真白はそんな雛子を間近に見て──ふと、雛子が泣いていたのだ、ということに気づく。

 目が腫れぼったくなっていたから。

「──泣いていたの?」

 真白は穏やかな声で雛子に問いかけた。