双葉高校と輝谷高校の距離は近くはない。
位置的には真ん中に白王高校があり、東に双葉高校、西に輝谷高校という感じである。
真白が輝谷からかなり離れた双葉高校にしたのは、四季に偶然会えるような距離にいると、心がいつまでも四季のことを追いかけるような気がするからだった。
いつもより少し遅い帰り道。真白は歩きたい気分だった。
バス停を通り過ぎ、休日には何かイベントをやっている音楽ホールの前を通り過ぎようとした──その時である。
ソプラノの歌声が耳に届いて来た。
音楽ホールの横手にある公園の野外ステージに、ひとり立つシルエット。
外灯の光を浴び、響く声。
「あ…」
真白の知っている顔だった。四季のことが好きな勝ち気な少女。
「高遠雛子…」
驚いたことに雛子は、まだ視覚的に認識出来るか出来ないかくらいに離れた距離にいる真白を真っ直ぐに見た。
「木之本真白?」
よく通る声で名を呼ばれた。
真白は硬直してしまう。
普段は明るい真白だが、それは本来臆病な性格をふるい立たせるために、そうしている部分が少なからずある。
それも、話しかけてきたのは高遠雛子。
雛子は、真白が四季とつき合っていたことを知っている。
一度「あなたが四季くんの彼女?」と訊かれ、思わず言葉につっかえ「は、はい」と気弱に返事を返すと、「そう」と何か品定めでもするように真白を見て、それっきり。
『高遠さん、真白のことあまりよく思ってないみたいよ。高遠さんも四季くんのこと好きだから』
周りの子にもそう言われて、真白は何となく高遠雛子のことを心の何処かで避けていた。
「聞こえなかった?あなたのことよ。私のことわからない?高遠雛子。声があるなら返事でもしたら?」
「は、はい!」
威圧的に言われ、真白は声を上ずらせながら返事をしてしまう。
真白が緊張したまま立ち尽くしているので、雛子はつかつかと歩いてきた。


