「雛子に告白するの?」
穏やかに果林がそんなことを聞いた。
「告白?…してどうするの」
「つき合いたいんじゃないの?」
「さあ…。果林といるのは自然な気がするけど、高遠雛子はふたりでいてもどうしていいかわからない気する」
樹は果林を抱きしめたまま、ソファに座り直した。
「──歌、は聴きたいんだけど」
「高遠雛子の?」
「そう。でもあの女、こっちが歌ってって言ったって望むように歌ってくれる女じゃないからな」
「女ってそんなものよ。顔が従順でも心の中は好きな男以外の言うことは聞かないようになっているもの」
「…へえ」
「狩りたい意欲掻き立てる?」
「ちょっとね」
「そ」
果林はすっと立ち上がった。
「今日は私と過ごすのはやめておいた方がいいわ、樹。あなたが求めているものは、思い描いている音楽と同じで、あなたが選んだ音でなければならないはずよ。あなたは少なくとも彼女の音楽を求めている。私と過ごすのはただの誤魔化しでしかないわ」
果林の言葉はすっと樹の胸に入ってきた。ここが果林の他の女とは違うところだ。
──ふと、樹の携帯が鳴り出した。何だろう。
樹は着信に表示される名前を見て、意外そうに目を瞠る。
「誰?」
「四季。何だろう」
「ええ?…四季くんの話なんかしてたからかな」
「出てもいい?」
「うん。楽しそうなお話だったら果林にも代わって」
「…何だよそれ」
樹は苦笑しながら通話に出る。
「はい。四季?どうしたの」
『ああ、少し聞きたいことあって。今、話しても構わない?』
「うん。となりに果林がいるんだけど」
『藍原先輩?』
四季が答えるのが聞こえたので、果林は樹の横から邪魔にならない程度に言葉を返した。
「ご名答。樹ね、ひなちゃんに言うこと聞いてもらえなくて拗ねていて、それで果林がお話聞いていたの」
「拗ねてないだろう」
ムッとしたように樹は答えるが、果林と樹の間に流れる空気は和やかだ。
その空気が伝わったのか「楽しそうだね」と四季からは反応が返ってきた。
「ところで、聞きたいことって?」
『うん…。高遠さんのことなんだけど』
「雛子?」
『樹、高遠さんが何処にいるのか知らない?舘野くんから電話があったんだけど、高遠さん、家に帰って来てないらしいって』


