中間試験、文化祭準備とめまぐるしい一週間を終え、日曜日、四季は桜沢の家を訪れた。

 忍がレンツに事前に話していたので、四季からレンツに話すことは少なかった。

 レンツは一通の封書を忍と四季に手渡した。

「忍が鍵を持ってきてくれた時は驚いた。あれは静和が亡くなる前に持っていた鍵だったから。忍のお祖母さまの家には、わけあって私は長く住んでいてね。私にはもうひとりの母親のような存在だった。それで静和もドイツに留学させる時に彼女のところに住んでいたことがあるのだ。この封書は読んでも構わないが、彼女のところを訪れる時までそのままでもいい。この封書を奪った者が、それだけでは彼女に相続権を要請出来なかったのには理由がある。それは彼女に会ってみた時にわかる」

 レンツはそう言い、四季に握手を求めた。

「静和の言葉を届けにきてくれてありがとう。あの鍵には、静和から私への思いも含まれていた。本当にありがとう」

 鍵がレンツに何を運んで来てくれたのかはわからなかったが、レンツの目にはうっすらと涙が滲んでいた。



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