その日は衣装のイメージの案だけをそれぞれ出して、予算内で作れるかを糸井硝子に打診してもらうことになった。
雛子はクラスの違う四季と作業が出来ることがよほど嬉しかったらしく、テンションが上がっている。
「…すごいね、綾川四季の威力」
練習を終えた樹が四季に言いに来た。
「高遠さん、歌声違うし」
四季は困ったように言う。
「──僕が誰ともつき合ってなかったら、高遠さんみたいな子、つき合ったら楽しいんじゃないかって思った。こういう言い方、変なんだけど。高遠さん、素直だよ」
「素直ってねぇ…。人の顔思い切り叩く女って、あまりいないと思うんだけど」
「え?叩かれたって本当だったの?」
「本当。ああ、四季も揺葉さんもその場にいなかったからわからないんだっけか」
四季は「参ったね」という顔をしている樹を見て、元気づけるように言った。
「高遠さんの方は、丘野くんに言われたことを気にしてはいないみたいだったよ。丘野くんも気にしない方がいいと思うけど。それに、そういうことがあってギクシャクもしていないなら、高遠さんは高遠さんなりに丘野くんを信頼しているし、その時の気持ちに正直なだけなんだと思う」
「ああ…そういう見方もあるか。確かにギクシャクはしてないな。かえってそれがやりやすいかもしれないし。…ありがとう」
向こうでは忍たちが衣装をどんな生地でつくるかという話題に花を咲かせている。
もちろん雛子も一緒である。
男子は「生地のことはさっぱりわからないし、作るなら手間のかからないものがいい」という意見で、女子の提案するイメージに、「俺はこっちの色がいい」といった感じで決めている。
「丘野くーん。丘野くんの衣装はどうするのー?」
雛子がふと気になったように樹を振り返った。
「え?僕?」
「指揮者だからって、普通の指揮者みたいな服だと絶対浮くわよ」
樹はそこまでは考えていなかったのか、言葉に詰まった。
「──制服じゃダメかな」
雛子が樹を見て、ため息をついた。
「全然ダメ。やり直し。丘野くんて音楽をまとめる才能あるのに、こんなところは全然ダメなのね」


