「高遠さん」
呼ばれて、雛子はその場で踊り出したくなってしまうくらい喜んでしまった。
「四季くん」
あり得ないあり得ないあり得ない。あり得ませんから!
一応、四季くんが揺葉さんのこと好きなことくらいわかってますから!
でもわかっていても嬉しい。
「何?雛子にデートのお誘い?」
あり得ないけど、言ってみる。
「デートじゃないんだけど」
「即答?…つまんない」
拗ねた顔を見せる雛子は年相応の可愛らしさがある。四季は柔らかく返した。
「音楽科って、文化祭、衣装用意したりするの?」
「そうね。丘野くんはオペレッタみたいな雰囲気に仕上げたいようなこと言ってたわ。衣装は個人に任せるって言ってたけど。私は女王の歌のソロがあるから、それらしい衣装でないといけないと思う」
「良かった。一緒に作らない?」
「え?」
「衣装。ソロのパート持っている人たちのそれぞれの衣装のイメージを揃えておくと、雰囲気出ると思う。僕はピアノだからそんなに衣装には凝らなくていいと思うんだけど、ちょっと…クラスので衣装作らなきゃいけなくなって」
「わー。四季くんどんな衣装着るの?」
「ジバンシィのドレスだって」
「え」
雛子の目が点になる。
「それ誰が着るの?四季くんが?」
「うん。オードリー・ヘップバーンのメイクで」
弾けるように、雛子が笑い出した。
「えー?四季くんが?何でー?嘘ー」
「ホントだってば」
「頭のいいクラスって変な企画するのねー」
雛子がこんなふうに笑っているのなんて滅多に見られない。
四季と雛子が楽しげに話しているのを見て、何事かと音楽科の人間もぽかーんとしている。
忍はその様子を見て、ほっとした。
実はどう話しかけていいのかわからなかったのだ。
四季が話しかけてくれて正解だと思った。
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