「丘野くんはピアノ弾かないの?この間練習で合わせてたけど」
「聞きたいの?」
「うん。勉強になる。丘野くんは本当はもっと『弾ける』人だけど、合わせている時は抑えて弾いているよね」
「そうだな…。四季に渡した譜で弾くなら『ピアノソロを聴かせる』ことも考えなきゃいけないから、弾き方も変えると思うけど。でも『聴かせる』なら四季の音だなって思ってしまっている部分があるんだろうね」
「綾川四季のピアノではなく、丘野樹のピアノを響かせたい、というのは?」
「そこまで自分の手が研鑽されているとは思わないよ。四季のピアノはコンクールで聴いてきているから。去年は聴けなくて寂しかった。…でもやっぱりお前また弾けるようになったな。弾きたくても弾けないって相当ストレスあったろ?」
樹もピアノを弾いている人間だから知っているのだろう。
四季は苦笑した。
「うん。由貴に『弾きすぎ禁止令』出されるんだけどね。でも弾きたいから」
「それ大事。弾けないと、楽譜を見て『弾けるようにならないと』って、強迫観念に縛られてしまいがちなんだけど、『弾けるようにならないと』じゃないんだよね。『弾きたい』のか?そこなんだよね」
「そう。音楽って知れば知るほど深みにはまる」
「そうなるよな。…そういえばさ」
「ん?」
「揺葉忍、お前とつき合いだしたあたりから、変わってきた。表情が生き生きしてきた。声とかも」
「本当に?」
「うまく行ってるの?」
「うん」
「合ってるんだろうな、お前と。揺葉さんが何か言うんじゃないけど。まあそれはそれでいいんだけど、ひとつ気がかりなことあって」
「気がかりなこと?」
「高遠雛子ってお前のこと好きだろう。それで揺葉忍の歌にもヴァイオリンにも対抗心剥き出しになってきてる。どうしたらいい?」
「──それ、由貴にも言われた。そんなに困るくらいになってるの?」


