クラヴィーアの1番、2番、3番のPRAELUDIUMを合わせて、練習しているツェルニーの曲を四季に見てもらっているうちに、廊下を行き交う生徒が増え始める。
「そろそろ教室戻ろうか」
四季が時計を見て、ピアノの上の楽譜を片付け始めた。
「──四季」
「何?」
「高遠さんっているじゃない?」
「うん。どうしたの?」
「四季のこと、本気みたいだから気をつけて」
「……。本気って──」
「好きってこと。四季が忍とつき合っているのは知っていて、それでも気持ちが抑えられないみたいだった。だから気をつけて。俺は高遠さんじゃないから、彼女が何を考えているのか、どういう行動に出るのか見当もつかないけど」
四季はこめかみに手をやる。
「忍のこと、何か言ってた?」
やはり気にかかるのは四季はA組で忍はF組とクラスが離れているというところだ。
由貴から「気をつけて」と言われるくらいに雛子の気持ちが強いのなら──雛子と同じクラスである忍のことはやはり心配である。
「うん。忍みたいに才能もあって彼氏が四季でってなると、高遠さんの目にはどうしても入ってしまうんだと思う。四季みたいにモテ過ぎるのも厄介だね」
「──。彼女いるのに」
「四季に彼女がいても、それでも想ってしまう気持ちって、あるんじゃない?」
「……」
「四季が忍に心を傾けるほどに大きくなる嫉妬心というか」
「それで高遠さんに優しくするの?中途半端な優しさも残酷じゃない?高遠さんにも忍にも誤解させるような態度を取って傷つけるとか──あり得ない」
「うん。出来るだけ振り回されないで。俺も四季と忍が傷ついているの見るのは嫌だし」
由貴は四季を元気づけるように背中をぽんと叩いた。
「音楽でぶつかってみたらいいよ」
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