「四季は『森は生きている』のピアノ・ソロ仕上げた?」
「インテンポで、全曲通してはまだ弾いてない。この間、通してみようと思ってインテンポで弾き始めて──弾いている途中で急に息が苦しくなって、びっくりして、その後速度落として弾いた」
「え?大丈夫だったの?」
「うん。まだ身体が以前と同じレベルまでには戻せてないのかなと思った。ショパンのエチュードなんかも、入院する前はインテンポで弾いていたけど、今は本来のテンポよりは少し落として弾いてる。まだそのテンポで弾く時期じゃないってセーブかけてる。気持ちは『こう弾きたい』と思っていてその通りに弾けていた時期があったから、身体がついて行っていない状態って、やっぱりストレスはあるね」
「四季でもやっぱりそうなんだ」
「そうだよ。人の身体ってデリケートだよ。怪我をして、良くなりたいからって無理なリハビリをしたら、余計悪化させると思う」
四季の表情からはピアノの音も自分の身体も大切にしようとする姿勢が見てとれた。
「由貴、弾いてみてどの作曲家が好き?」
「んー…。そこまで答えられるほど弾いてはいないから迷う。──四季は?」
「僕は最初ベートーヴェンだった。でも弾いているうちにシンプルにいいなと思えてきたのはバッハ。ショパンも好きだけど、ショパンの音楽を聴いて、何故ショパンがバッハの曲を弾いていたのかを考えたら…何となくわかる気がする」
「バッハか…」
「由貴はバッハどう?」
「ん?わりと好き。聴いていても気分が落ち着く感じだよね。でも、俺を教えていた先生はバッハはよくわからないって言っていたから、あまり弾かせてもらえなかったけど」
「ふふ。そうなんだ」
「でもいいよ。四季がバッハ好きなら四季に教えてもらえるし」


