由貴は涼と2階の部屋に来たものの、どうしていいのかわからなかった。
それは涼の方も同じで、胸の内を不安がめぐっていた。
白いシーツのベッドのふちに涼が座る。由貴もすぐそばに座り、やがて由貴が聞いた。
「涼、俺のこと、怖いと思う?」
涼は由貴の何処か傷ついたような表情を見て、首をふる。
「涼が怖いのは『よくわからないこと』で、会長が怖いわけではないと思う」
「…そう」
由貴は大事そうに涼の頬にふれて…やめた。
「俺は自分が怖いけど」
「──」
「涼は自分が怖くなることない?」
「どうして怖くなるの?」
「──感情が止まらなくなることってない?好きになりすぎると」
「好きになりすぎると、どうなるの」
「……」
「会長、壊れちゃうの」
涼の小さな手が、由貴の頬にふれる。
その手がそっと由貴を抱きしめた。
「会長は、会長でいいよ。好きになりすぎても、壊れても、会長は会長だよ」
不思議な感覚だった。
抱きしめていると思っていた儚くて綺麗なものに、由貴は抱きしめられていた。
この感情は何処から来るのだろう。由貴は涼の中に、求めていた自分の心を見た気がして、切なくなった。
(俺は、俺の綺麗なものを守りたかったんだろうか?)
綺麗なものが壊れて行くのは悲しい。
何を根拠に『綺麗なもの』『綺麗ではないもの』なんて言えるのかはわからないが、それでも自分の感情に『綺麗なもの』『綺麗ではないもの』と感じるものがあるのだ。
「俺、涼を見ていると綺麗な気持ちにさせられる」
「…会長」
「生きているとすごくくだらないことに心が苛まれることがあるんだけど、涼がいてくれるから俺は俺でいられる気がする」


