時は今




 別荘の夜は静かだ。

 リビングの照明は小さい灯りだけをつけて、四季の傍らでは忍がうとうとしている。

 四季に英語を教えてもらうはずだった智は、四季のノートを見ながら、キッチンのテーブルの方で試験勉強をしはじめた。

「吉野さん、頑張りますね」

 隆史は智の斜め向かいに座り、本を読んでいる。智はため息をつく。

「私はこの中じゃいちばん普通の頭だからなぁ。でも来年も涼とは同じクラスでいたいから、ここまで来たら意地でもってのはあるな」

「吉野さんは涼ちゃんが好きなんですね」

「え?…ああ。そうだね」

 涼と仲良くなったきっかけを思い出して、智は苦笑する。

「涼さぁ、おとなしげな顔して、私の好きな奴、殴ったのよ。その、好きな奴ってのがちょっと軽い奴でさ。で、私が傷ついたから、涼、頭に来たみたいで、そいつの顔、手のひらでパーンと」

「…え。涼ちゃんがですか?」

「そ。見えないっしょ?で、私、何てゆーのか、その時の涼の行動にやられちゃったみたいでさ。こいつ、いい奴だなぁって思って。そんで、今に至る」

 隆史は涼のことを語る智の表情を見て、さっき泣いていた智と今の智とが繋がった気がした。

「その…好きな奴というのは、さっきの?」

「ああ、うん。…あはは。わかるんだ」

「彼氏、だったんですか?」

「…いや。向こうからも私からも告白ってのはなくて、でも仲は良くて、キスもしたんだけど。その後、そいつに、他校に彼女がいるって知って。『まさか本気だったの?』って言われて。そんで、ああ向こうは本気じゃなかったんだとか、本気でもねーのにキスするような女だと思ってたのか私のこと…とか思ってさ」

 いつになく智の表情は淡々としていた。

「先生、そういう男の気持ち、わかる?」

「僕にはわからないですねぇ」

「そうか。…良かった」

 智はふと隆史を見た。

 隆史は真面目な表情で智のことを見ていた。

「──何?先生」

「吉野さんをそんなふうに扱える男なんて、よっぽど見る目がなかったんですよ」

「……」

 何だか目の奥が熱くなる。

 また泣けてきそうになって、智は笑った。

「ありがとう、先生」