「あー…もー…。すみません、先生」
智は携帯をしまいながら、立ち上がった。
「だめだめだめ。も、全っ然だめ。気合い入れ直しだ私。ちくしょう。こんな顔で帰れるか。演劇部部長の名が泣くわ」
隆史は面白いものを見たとでもいうのか、智の頭を撫でた。
「いや…。しかし、なかなか…可愛いですね。吉野さん」
智はぐるぐるになっている思考を飛ばすように、ぴしゃりと頬を叩いて──隆史の科白を耳に拾って、問い返す。
「は?可愛い?私が?」
「はい。吉野さんが」
「何処が?って聞いていい?先生」
「いえ、もう、何処がというより、何やら可愛くて仕方がない」
「ふはははは。綾川隆史に物好きの称号をあげてつかわす」
「それじゃ、僕、智ちゃんて呼ぼうかなぁ」
「うわぁぁぁやめて。智ちゃんなんてガラじゃねぇし。トリハダ立つ」
「あはは。冗談ですよー」
「本当か?本当だな?」
「どうしようかなぁ」
「ああ、こんなことしてる場合じゃねぇ!先生!とっとと食材買って戻らないと、可愛い由貴くんとか四季くんとかが、可愛いお嬢さんたちに手を出してるかもわからんぜ!?」
「…おや。奥ゆかしい少年たちに愛の手を差しのべてあげる心づもりだったのでは?」
「先生。真面目に言ってますか?あなた先生よ?生徒会長の由貴くんのお父様よ?」
「ふふ。いい子だなぁ、吉野さん」
「うーむ…。この父親にして、何故あの会長が?謎だわ」
「そうかなぁ。僕に似て、とても出来のいい子に育ったと思うけど」
「ああ、また何か言ってる…」
一緒にいたのが隆史で良かったと思った。
さっき泣いたのが嘘のように心が晴れていた。


