時は今




「──大丈夫ですか、吉野さん?」

 通話を切り、隆史が落ち着いた声で尋ねた。

 智は、らしくない表情で俯いたまま、頷く。





 車から降りた時だった。

 あいつを見たのは。

 並んで歩いていたのはお洒落な雰囲気の女の子。肩を抱いていた。おそらく彼女だろう。

 もうずいぶん前のことなのに、あの時と同じように胸が痛んだ。

 ダメだ、私は。

 全然立ち直れていない。

 強くなろうとしてみたけど、心はたぶん置き去りのままなのだ。

 あの頃のまま。





 自分、どんな顔をしていたんだろうか。

 先生がすれ違いざま、あいつが私に気づかないように、私を守るように引き寄せて片腕で抱きしめた。

 それで、あいつが視界から消えた。

「──会いたくなかった人?」

 しばらくして、先生が訊いた。

 私は頷いた。

 それから不覚にも先生の腕の中で泣いてしまった。