『忍へ。この手紙は、今の君の恋人である、綾川四季くんに書いてもらったものです。事故で死んでしまう前、僕は一通の大切な手紙を無くしました。それを取り戻すことが出来たため、四季くんに頼んで、この手紙を書いてもらったのです。大切な手紙というのは、君のお祖母様に書いてもらった手紙のことです。僕が向こうの音楽院で学んでいた時、君のお祖母様は僕のことをとても可愛がってくれました。もちろん、僕が向こうで学んでいる時は、僕は揺葉忍にはまだ出会ってはいないので、彼女が君のお祖母様だと知ることになるのは、君と出会って後のことになるのですが』
そこには、忍が初めて知ることが書かれていた。
忍は自分のお祖母様のことなどほとんど知らない。
静和を失う数日前から、静和が何か忙しそうにしている様子だったが、このことが関係しているのだろうか。
『君のお祖母様は音楽が好きで、また、日本にとても興味を持っていました。聞いてみると、日本に血の繋がった孫がひとりいるはずだと言うのです。それが君でした。君の父親は相続権など要らないと家を出て行ったきり戻っても来ない様子で、君が音楽をしている話をするとお祖母様はとても喜んで、もし音楽を学びたい気持ちがあるなら相続権はすべて君にあげたいと話してくれたのです。君の父親が、相続権を要らないという理由には、その相続権をめぐって争いの絶えない親族にありました。しかし孫である君にすべてを相続させてしまえば、お祖母様よりもさらに、君とは遠い血縁関係となる親族の者たちは、あつかましく君のものに手出しは出来なくなるでしょう。また、君なら純粋に音楽のために使ってくれるはずだとも。僕は君のお祖母様の真意を汲み、忍さえその気持ちがあれば正式に相続出来るよう、お祖母様に忍への手紙を書いてもらったのです。死んでしまうほんの少し前まで、僕がドイツにいたのは、仕事のためもありましたが、お祖母様にこの手紙を書いてもらうためでもありました』


