時は今




 由貴はそれで納得しているのだろうか。

 わからなかったらいいよ、と涼に言った。

「わかるって?」

「──涼は俺といてそういう気持ちになったことある?」

「……」

「だから、なかったら、今はまだいいよ」

 由貴の声は優しかった。

 いつもこういう雰囲気なのだろうか。由貴が涼をとても大事にしていることはそれだけで伝わってきた。

 涼は、由貴が言うように「そういう気持ち」がわからなかった。

 由貴のことが好きな気持ちとそれとは、涼の中では切り離された別々の存在だった。

 そういう気持ちがわからなければ、好きではないということなのだろうか?

(でも本当に好きなのに)

 涼は、由貴の言っていることがわからなくて、切ない気持ちになることがあった。

「……」

 胸が潰れそうだった。

 好きなのに、好きな人と同じ気持ちにはなれない──。

「…涼」

 今にも泣き出しそうな表情になっている涼に、声をかけたのは忍だった。

「そういえば、部屋、決めておこう?」

 そう言って涼の手を取る。四季を見ると、察したように「行って」という表情を作った。





 忍は涼の手をとったまま2階に上がって行く。

 涼はおとなしくついてきた。

 2階についたところで、涼が立ち止まる。

 堪えていた涙がぱたぱたとこぼれ落ちた。

「涼、頑張ったね」

 忍の優しい声がした。由貴の前で泣いていたら由貴が弱っていただろう。

「…忍ちゃん」

 涼は忍を見上げた。忍はふわりと涼を抱きしめてくれた。