時は今




 第3楽章のトルコ行進曲までを弾き終えた由貴が、急に「眠い」と言い出した。

 ふらっと立ち上がったのはいいが、身体がよろける。近くにいた四季が反射的に手をのばして由貴を支えた。

「ちょ…っ。由貴、大丈夫?」

「ごめ…。四季」

 すうっと眠りに落ちてしまう。変な睡眠薬か何かでも使われたかのような奇妙な眠り方。

 四季は危うげなく由貴を抱きかかえて、そのままフローリングの床に寝かせる。

 何が起こったのだろうか。

「涼も…眠い」

「え?」

「四季くん…。涼もお昼寝する」

 涼は言いながら、由貴のそばにコロンと寝転がった。

「……」

 四季は呆然とその光景を見つめ、はっとして部屋を見回した。

 ソファーの方では智と忍が眠りこけていた。





「ニャー」

 と。

 何処から入り込んできたのか、灰色の猫が姿を現した。

 何か伝えたいことがあるように顔をじっと見つめる。四季は問いかけた。

「──何処から来たの?」

「ニャー」

 猫は四季のノートにトン、と飛びのった。シャーペンを手で転がす。

「何?」

「ニャー」

 猫はノートの前に座り込んだ。

「何か書けということ?」

 猫は「そうだ」とでも言いたげな目で、四季を見つめる。

 四季は猫とノートを前に座り込んだ。

「何を書けばいいの?」

 猫は教科書をめくろうとする仕種をした。

「このページじゃないの?」

 四季は猫の様子を見ながら1枚1枚ページをめくる。あるページまで来ると猫は前足でぴたっとページを押さえた。

「このページ?」

「ニャー」

 猫はトントントンと教科書のふちを前足で叩いた。

「え?50ページ?」

 教科書のページ数を見て、四季は答える。猫からは好反応が返ってきた。

「ニャー」

 それから猫は机から飛び降り、ピアノに向かって走る。鍵盤に乗った。音が鳴る。

 四季はノートとシャーペンを持ったまま、猫のそばに来る。

「何?鍵盤?」

 今度は猫は首を振った。

「ピアノ?」

 やはり首を振る。

 ポーン、と一音だけを叩いた。

「音?」

「ニャー」

「え?音?合ってる?」

「ニャー」

「そうか。50ページ…音…」

 四季はノートに書き込んで「あとは?」と質問した。