時は今




 先週までは文化祭と定期演奏会の練習に熱が入っていた音楽科だったが、今週はその熱が一時的にやや抑えられた雰囲気になっている。

 来週から中間試験が始まるため、進学科・音楽科を問わず緊張した空気になっているのだ。





「ゆりりん、私の英語どうにかしてー」

 望月杏がぱたりと机に伏した。

 白王の音楽科は、英語が比較的レベルが高い。音楽を学ぶとなると外国語は何処かで必ずついてくるため力を入れているのである。

 問題の答え合わせをしていた忍は「声に出して朗読してみたらいいよ」と言った。

「えーそんなので覚えられる?」

「四季がその方法で勉強していたわ。朗読しながら覚えているみたい。私、四季の朗読で覚えたところがあるもの」

「嘘ー。四季くん連れてきてー」

 忍は「A組の試験範囲を聞いて同じならね」と言った。

「わ。本当に?」

「うん」

 途端に元気になって、うきうきと教科書を見直し始める杏に、ほのかが「ゲンキン」と笑った。

「──そういえばゆりりん」

「何?」

「昨日、四季くんの家にお泊まりしたってほんと?」

「──」

 忍が無言になる。頬が熱くなるのがわかった。

「……。それ、何処からの話?」

「わかんない。四季くん好きな子いっぱいいるから…。私は坂本さんから聞いて」

 杏はその話に興味津々の顔になったが、ほのかが心配そうにしているので、周りの女子の様子を窺った。

「ゆりりん、見張られているのかな?──だとしたら少し気持ち悪いね」

「うん」

「…ほんとなの?」

 忍は控えめに認めた。杏が「わー」と小声で喜ぶ。

「どうだった?」

「どうって…。四季、熱出してたのよ」

 忍は静かに言った。

「元カノと話をしてきたみたい。きちんと別れてなかったから、別れてきたって。それが少し精神的にきつかったんだと思う」

「ああ…。じゃあ、そういう意味でのお泊まりではなく?」

「うん」

 本当はそうなりそうな雰囲気ではあったが、あまりそういった話をすると四季が傷つくような気がしたため、言わなかった。

 四季が自分を大事にしようとしてくれるのが、昨日ふれ合っていてわかったことだった。

 その気持ちを傷つけてはいけないと思った。