美歌は今度白王を受けるらしい。過去の入試問題を見て勉強しはじめた。

 忍も自分の予習をしながら時々美歌の質問に答えたりした。

 いつも拒食気味の四季だが、美歌と忍の雰囲気の和やかさにつられてか、ゆっくりだが箸を動かし始めた。

「忍さんは白王卒業したら進学考えているんですか?」

「え…」

 美歌の質問に忍は困ったような表情をつくった。

「そうね。進学はしたい。音楽の勉強はしたい。でも…」

「でも?」

「まだ…考え中。本当は早く決めなければいけないんだけど」

 そこで忍は気になっていたことを四季に訊いた。

「四季は?外国は水があまり良くないっていうから、身体のことを考えるなら日本の音大がいいと思う。それとも高校卒業したら国外に出ること考えてる?」

「──そうだね…」

 四季もそのことは考えていたのか、落ち着いた声で答えた。

「とりあえず輝谷音大を考えてる。家も近いし何かあった時すぐに動けるし。国外はもう少し様子を見てから。出て行った先で体調崩したら困るから」

「そう」

「忍さんは音楽の勉強をするならお兄ちゃんと一緒のところ?」

 美歌の質問に忍は頷いた。

「うん。出来れば」

 四季は忍のその言葉に予想外に嬉しいものをもらったように見つめる。忍が笑った。

「何?困るの?」

「ううん。…嬉しい」

「そう。じゃあ四季と一緒に歩けるように努力する」

 美歌が楽しそうに言った。

「忍さんがこのままお兄ちゃんと一緒だと、忍さんは美歌のお姉ちゃんね。あ、聞いて聞いて、お兄ちゃん、忍さん、美乳なの!知ってた?」

「ちょ、ちょっと、美歌ちゃん」

 忍が赤くなり、四季がその言葉にむせて咳こんでしまう。忍が水の入ったグラスを四季に渡した。

「ご、ごめんなさい、お兄ちゃん」

 美歌はおろおろと四季と忍とを交互に見る。

「あのね、美歌…」

 四季が困ったように俯いている。目を合わせられないのは忍の方も同じで、やり場のない目が宙をさまよってしまった。

 美歌がそーっと四季の横顔を窺う。

「…ひょっとして、お兄ちゃん忍さんのさわったことなかった?美歌、先越しちゃった?」

「──何で美歌が忍をさわってるの」

「え?女の子同士だから」

 忍はあまりの会話の内容に可笑しくなって笑い出してしまった。