建物が壊れていった。

 渦を描いて崩れ落ちてゆく建物と一緒に、幾人もの人が蟻地獄に吸い込まれてゆくように、消えて行った。

 黒い帽子を目深に被った黒いコートの老人が、丸眼鏡の向こうから冷ややかな目でこちらを見つめ、指差した。

「次のステーションはお前だ」





 はっとして目が醒めた。

 涙が頬をつたっている。

(夢──…)

 夢というには怖いくらいに現実的な感覚があった。震えが来ている。

 由貴はまだ暗い中起き上がると部屋の電気をつけた。時計は午前2時を回ったあたり。

(何だろう、今の──)

 考えてもわからなかった。

 従兄の四季にメールをしてみようかと一瞬考え、こんな時間にメールで起こすのはどうかと、すぐにその考えを打ち消す。

(少し落ち着こう)

 眠れない気分になってしまい温かいものでも淹れることにした。

 やかんを火にかけながら脳裏ではまだ、老人の言葉が繰り返されていた。





『次のステーションはお前だ』