ショックな出来事があると、どれくらいの時が過ぎても、その時のことはまるで昨日のことのように感じるものだと話す人がいた。

 戦争を体験した人の話だったのだが。

 涼は戦争を体験したわけではないが、その言葉はよくわかった。

 どうして、とか、何で、という言葉も思い浮かばない。

 ああ、お兄ちゃんが。

 お兄ちゃんが。

 涼の思考もすっとこときれるように、それだけだった。

 事故の後、涼はぼうっと考えることが多くなった。考えたくて考えているのではない。