「よくわからないって…自分のことなのに?」

「……。告白されてつきあったことある?」

 何の脈絡もなく四季がそんな問いを口にした。忍は「え…」と間の抜けた反応を返してしまう。

 告白されてつき合ったこと?

「…まだないわ」

「そうなの」

「どうして?」

「うん…。何だか空虚な気持ちになって」

 四季は手を組み合わせてぽつぽつ話した。

「可愛い子なんだよね。いい子。でも僕の心がたぶん彼女を彼女的な意味で好きにはなれていない」

「そう」

「ひどい人間なのかなとも思ったりもする。相手が好きになってくれているのに、僕の心は動いてないなんて」



『何で?』



 好きな人がいた。

 好きな人がいるから拒んだ。

 それを『何で?』と聞かれた。

 何でって…どうしようもないよ。

 好きだけは、どうしようもない。

 その人じゃなければダメな好きという好きを抱えたくて抱えているのじゃないのに。



 忍を追い詰めた気持ちに、それはよく似ていた。

「好きな人がいる時に、好きな人とは別の人に『あなたのことが好きだから』と言われても、心は動かないという気持ちならわかるわ」

 忍は四季に微笑みかけた。

「それは『いけないこと』ではなく、『仕方のないこと』なのよ。きっと。好きになれないのは、あなたのせいじゃない」

 忍の言葉は四季の心を幾分軽くしてくれた。

「揺葉さんは…それくらい好きになったことがあるんだね」

「ないの?好きになったこと」

「うん…。それまでずっと興味がピアノにしか行ってなかったから」

「意外。モテるみたいなのに」

「案外それでなのかな…。周りが『四季くん、四季くん』って盛り上がってて、僕は気後れしてて気を遣ってて…」

 四季はそう言葉にして…揺葉忍を見ると納得したように言った。

「ああ、だからだよ。揺葉さん、僕を見ても『四季くんだ』みたいな顔しない。それで落ち着くんだ。僕も」