「そうか…。そうね」

 忍はもうひとくち飲んで、自分は飲み物を飲んでいるのだ、という実感を掴むと、おにぎりを手に取った。

 外装のフィルムを取り、海苔で包む。

 ぱくっと頬張る。

 ふわっとご飯と海苔の味が口に広がった。

 普通に食べることが出来たことに、忍は思わず呟いてしまった。

「美味しい。…私、お腹が空いていたのね」

 新鮮な反応に四季は笑った。

「それはそうだと思うよ。ずっと何も食べてなかったんでしょ?」

「そうなんだけど…。あんまり非現実的な状況に身を委ねていたからかしら」

「揺葉さん面白い。もっと買って来れば良かったね」

 四季もおにぎりを食べ始めた。

 さっきまでだるかったのが、笑ったことで少し元気になったような感じがした。

「僕、さっきまで熱っぽかったんだよね」

「え?嘘」

「ホント。図書室いたでしょ?保健室なんかに行ったらね、休み時間でも『四季くん大丈夫?』って心配しに来る子いるから、そうそう保健室も行けなくて。図書室が静かだから、休みたい時は図書室に行くこともある」

「そうだったのね…」

「揺葉さんはよく僕が図書室にいるってわかったね。偶然?」

「そう。図書室らしいところが一階にあるのが窓から見えたから、司書に聞いてみようかしらって思ったの。もしかしたら姿が見えるかもしれないから、と思ったから。こちらが人の目に見えていたい意志があるのなら。そしたら──司書の姿を探す前に四季くん本人に会ってしまったから、聞く必要なくなってしまったんだけど」

 休憩所は穏やかな風が吹いていた。四季はテーブルに頬杖をつき、リラックスした表情を見せる。

「あ…何かいい。落ち着く」

 忍は四季の横顔を見て、「落ち着かないことでもあったの?」と訊いた。

 四季は「よくわからない」と答えた。