「ち」の声は大きく足踏みした蹄音で消えた。
手綱を引いての減速。馬に一度足踏みをさせてからスピードを切り替えた。
遅くなったと思う前に、ルカが行動に移る。扉に蹴りを入れるという横暴行為。
もともと規格外の運転により車両にガタが来ていたのだ。止めとなる一撃を与えれば、軋みをあげた蝶番(ちょうつがい)が壊れる。
取り付け不可な扉が外れる。見ようによっては開け損ねのビックリ箱。勢いよく蓋(扉)が吹っ飛んだ。
「っっ……」
くぐもった悲鳴は騎手から。何せ、外れた扉がこちらに飛んできたのだ。
流れてきた物体は予期せぬ障害。避けると考える前にもろにくらってしまった。
馬の足。
扉に足掛けをされた馬が倒れ、自然と騎手も道連れとなる。


