猫かぶりは血を被り、冷徹はささやかに一瞥した



ここまで来れば、エレナにとっての馬車とは自転車と同じだ。


生き物だろうが、馬=勝手に回るペダルの方程式で、操縦者はエレナ。

御者とは正にエレナにあるべき単語らしく、今のエレナの手綱さばきは達人めいていた。


「きゃー、気持ちー」


ついで、最高速度を追い抜こうスピードを肌で感じたことにより、楽しんでもいた。


これで無駄な重さがない馬単品の騎手ならばどうなることやら。末恐ろしいどころか、もはや背筋が凍る。


もっとも、ルカの場合は車両の後部を貫く矢がいつこちらに届くかの方に意識を持っていかれていた。


車両はやわな素材で囲われてないものの、こうも矢が通るとあっては考えものだ。


しかもか、いくらスピードが上がっても、やはり車両の重さがこちらを縛る。このままでは当初の推察通りに追いつかれるだろう。