猫かぶりは血を被り、冷徹はささやかに一瞥した



本音を言えば、まとわりつく羽虫を一掃はしたいものの、今のエレナの第一目標はルカに傷一つも与えないこと。


ルカの力を信用していないわけではないが、念には念をで重ねてもまだ足りない。


「誰かを守るって大変だなー。でも守護者になるんだから頑張らなきゃだねー」


手を二回転させる。手のひらに巻き付いた手綱は馬と一心同体にでもなった気持ちになる。


今までがお遊びと言わんばかりに、エレナは更に馬に無理強いをさせた。


馬とて限界か、いななきと共に唾を吐いて苦悶をあからさまにするも、駆ける足を速めた。


もはや暴れ馬。けたたましい蹄音は砂煙すらもあげよう。


それでも馬が止まらず、道を見失わず走れたのはエレナの手綱さばきがあってこそ。


手綱から馬のよろめきを感じとり、右に余計に行くなら左、左に余計に行くなら右に、馬の重心を常に意識し真ん中へ。エレナは体重移動も重ねて暴れ馬を制していた。