猫かぶりは血を被り、冷徹はささやかに一瞥した



手から落ちた書類は綴り紐でまとめているも、親骨が広がりすぎた扇のように散らばった。


拾おうにも、上体の踏ん張りを無くせば車内で人間ピンボールをしてしまう。揺れ動く車内では、右左上下となされるがままに体を打ち付けてしまう。


慣性の法則も敵わない荒い揺れは人為的なものだ。


「なんだ、いきなり……っ」


手綱の担い手に聞こうとしたがタイミング悪く舌を噛んだ。


「あー、だから言ったじゃないですかー。お口にチャックしなきゃ、舌噛んじゃいますよー」


「それはお前が荒い御者をするからだろう……!」


上がり続けるスピード。整えられていない道を馬車(二輪)が走るだけでも不安定なのに、常識はずれな馬の扱いには語気を荒げてもしまう。