猫かぶりは血を被り、冷徹はささやかに一瞥した



いくら軍での仕事はミカエルに任せたと言っても、もともとルカの仕事量は多い。サインするだけならまだしも、下らない案件を弾いたり、嫌がらせが如く録でもない書類が山ほど来るのだ。


一日放置すれば、後々の仕事に大きく邪魔をし、一ヶ月は間延びしよう。だからこそ、それをミカエルに任せっきりにはできず、両手を使うことをしないのならば、こうして空いた手で書類に目を通すのは当たり前だった。


どこまでも真面目な。今まで一言たりとも言葉はなかったが、飽きたのかエレナが前ぶれなく口を開いた。


「ミーちゃんさんって、ルカ様の恋人なんですかー」


車内の外から、中にまで聞こえるような音量が二つほど上がった声。


あげずとも、ルカが座っているのは運転席側だ。横から見れば、御者台のエレナとは背中を合わせているようなもので、普通音量でも聞こえる。