お仕置きゲーム。



智香の母親は俺の近くに来て、困ったように笑う。


「真咲ちゃん、寝てたから声かけなかったのよ。」寝てると思われていたらしい。ずっとそう思ってればよかったのに。「体のほうは大丈夫なの?」「うん。明後日には退院できる。」「そう、良かったわ。」


ほ、と胸を撫で下ろす。「元気そうで良かったわ。」智香の母親は俺の頭に手を伸ばしてきた。それを反射的に振り払う。(マサキ。)「あ、」「ごめんなさい、嫌だった?」「...そンなこと、ないけど。」ただ、真咲に触れて欲しくなかっただけだ。


「きっと照れてるだけだよ。ね、真咲ちゃん!」


侑里乃は純粋な笑みを浮かべて、俺の頭を乱暴に撫でてきた。母親に気を取られていたせいで避ける事が出来ない。「ッ、おい、やめ、「真咲ちゃんの髪、バラバラ。」「侑里乃、やめなさい。」母親に少し強い声音で言われ、侑里乃は渋々離れる。


(相変わらずだなぁ、侑里乃ちゃん)俺の中で真咲が呟く。「...真咲ちゃん、おばさんが髪を整えてあげるわよ。」「いいデス。」「遠慮しないで。...その、少しは気がまぎれるかもしれないから。こうみえてもおばさん美容師なの。任せて。」「...。」



どうやらこのオバサンは、先生に無理やり髪を切られた可哀想な俺を少しでも元気づけようとしているらしい。余計な世話だった。第一、この髪は自分でヤったものだ。全部こいつらの勘違い。ハ、と鼻で笑うと2人は驚いたように目を見開く。


(...マサキ、せっかくだししてもらおうよ。)お前、智香が憎いンじゃねぇのかよ。(智香は智香だもん。侑里乃ちゃんとおばさんは関係ないよ)都合のいい奴。


「真咲、ちゃん?」


「...やっぱり、お願いしてもいいですか?」

真咲の真似をして微笑めば、オバサンと侑里乃は安心したように笑った。