「きれい」


 父親に連れられ入場してきた椿は、先程とは別人だった。


 スタッフが相当頑張ったらしく、綺麗の一文字しか今の椿には似合わない。


 艶やかな黒髪は上に結われ、その上からベールが乗せられている。


 歩くたび純白のドレスが揺れ、目が離せない。

 椿が瞬くたび見える金色の瞳は真っ直ぐに静を見つめていた。

 やがて椿が静の横に立ち、二人の前に立つ神父が頷いた。

 パラリと分厚い本を捲り、神父が声を発する。

 灰色に近い白髪の髪揺らし、静は赤い瞳を伏せた。


 ここでは、誰一人静の姿を、椿の姿を。

 笑うものはいない。


 蔑むものはいない。