「誘拐?現実的でなさ過ぎる。控え室まで忍び込んで?ありえない」


 だが、一度は静もその線を疑ったらしく、随分細かく分析した答えが返って来た。


 「逃げ出した、とか?」


 「あり得ない。椿ちゃんにとって、今日この日でないと意味がないんだから」


 そうか。とタバコに火をつけながら狼狽は呟いた。


 焦っていないわけではない。確かに未だに妹を嫁に出すのは嫌でしかないし、この悪逆非道の腐った男(静)に可愛い子羊(椿)を渡すのも嫌だ。