「椿!ツバキ~!どこだよ…ツバキ~!」

 式場を走り回りながら男、陽辻 狼狽(ひつじ える)は汗を拭った。

 「くそ…あいつ何処行きやがった」

 近くにあったゴミ箱を蹴り、狼狽は空を見上げた。

 天気は結婚式日和の晴天で、冬だというのに寒くない。

 
 「いっそ、台風とかハリケーンとか竜巻とかだったらよかったのに…」

 「狼狽。お願いだから、それだけは願わないで」

 建物の影から出てきた男は、灰色に近い白髪をかきあげ近づいて来た。

 「うるせー。この泥棒猫が。俺の可愛い妹を嫁にやるなんて俺は断固反対だからな」

 
 「それ元ヤンの台詞とは思えないよね。後輩が聞いたら泣くよ?」

 「黙れアホ静(しずか)。で?俺の愛しの椿は見つかったのか?」

 
 白髪を左右に振り男、緋月 静(あかつき しずか)は腰に手を当てた。

 「ダメ。こっちにもいない」