綺麗なスカイブルーの瞳が剣呑さを含み、その目で射殺されそうなほどの殺気が遠慮なく飛ばされる。


それに怯みながらも、構わず私は続けた。


「確かに、私はこの世界のことはレティに教えて貰ったことしか知らない。 何がこの国の決まりに反することか、全然わからないよ。 でもね、やっていいことと悪いことくらいちゃんとわかる。 アンタみたいに、そうやって簡単に差別したり蔑んだりする人が、一国の王子様だなんて笑わせないで」


さっき私がされたように、真似して嘲笑を浮かべる。
すると、今まで何もなかったはずの目の前の男の周りを、黒い煙のようなものが漂いはじめた。それに驚いて、瞬きをした一瞬のうちにその煙がはじけ飛ぶ。それと同時に、自分の身体が弾き飛ばされた。


自分の状況を理解した時には壁に背中からぶつかっていた。
背後からパキパキと音がする。その音を不思議に思って、ちらりと見てみると、私がぶつかった壁に、私を中心にして大きな亀裂が入っていた。

漫画でしか見たことがなかった状況に唖然としつつも、壁が物語っている衝撃の割に痛みが全くないことが不思議でならない。

弾き飛ばされた衝撃も、壁にぶつかった衝撃も、何も感じなかった。

重力で自分の身体が落ちると予想していたのに、なにかに抱えられて降ろされているみたいに、ゆっくりと自分の身体が床に降りるのを信じられない思いで眺めていた。


「な、に、……いまの」


唖然としながら自分の身体を見下ろしてみても、傷一つないし痛みもない。

自分に起こっていることが理解できていない私に反して、お兄さんはハッ、とつめていたらしい息を吐き出してやっぱり私を見下す視線を向けてくる。