チッと舌打ちをした後に口を尖らせると、唇をぶにゅっとつままれる。


「自分が泳げない理由は理解してる?」


「んー」


唇をつままれているがために“ん”しか言えなかった私の返事を、

梶原コーチは“YES”ととらえたらしく、

私の唇を解放して「じゃあ何?」と尋ねた。


水中で目を開けることは克服したし、あとはもう1つ。


「水の中で浮けないこと…です」


「じゃあグライドキックだな」


コーチは私の答えを見透かしてすでに練習メニューを用意していたかのごとく、

あり得ないスピードで言葉を返した。


「グライドキック?」


「けのびのことだよ。バタ足はせず壁を蹴って浮くんだ」