「じゃあまずは水に顔をつけてみましょう。」

私は運動神経抜群。

スポーツ推薦で今の高校に入学したほどの体育馬鹿。

なのに!

水泳はどうしても私の前に立ちふさがり,どいてはくれない。


体育高等学校では当たり前のように水泳の授業があるから,
さすがに乗り切らないわけにはいかない。


私は自分の顔に水をバシャッとかけた。


「顔に水をつけるんじゃなくて,
水に顔をつけようか。」


目の前の優しそうな女性コーチは困っている。


私は開き直ったように息を止め,顔を水面に押しあてる。

…別に水に顔もつけられないわけじゃないもん。


「じゃあこれ,何本か見えるー?」


顔だけ水につけている私の耳に聞こえる程度の適度なボリュームで,女性コーチが言った。


…え,見えない見えない見えない見えない!!!

普通に見えないから!!

だって目閉じてるもん。

瞼の上からでも見ろってか!?