教室は悉く静かで、先生の声と、息遣いが聞こえるだけだった。

夏の授業は増して蒸し暑く、僕の視線は先生の頭と時計を交互に向けられるばかりだ。


「千尋、」


先生に気付かれないように、隣の席の千尋の名前を呼ぶ。

千尋は僕の声に気付き、僕の持っていた紙を受け取る。


『キス』とだけ書いた、白い紙。
ノートの切れ端を千切ったいびつな紙に、千尋は一笑して、そこに文字を書き加える。

『キス?』

千尋は先生の目線を伺いながら、僕にその紙を返した。