ぴったり収まったカゴの音を聞くのと同時に、忘れたことに気付いたボクは


慌ててお財布を取り出して、急いで卵の売り場を目指した。



「っおわ!」


「……ほぇっ!?」



焦って前も見ずに進んでたせいだと思う。


目の前にいた人に気付かなかったボクは、その人に思いっきりぶつかった。



ぶつかった拍子に、お財布が手から滑り落ちる。



別に倒れもしなかったし、痛くもなかったけど……


何となくぶつけた額に手を当てながら、頭を下げた。



「す、すみませんっ!」


「あぁ、気にしないで。それよりも、大丈夫だった?」



降ってきた優しい声に、ばっと顔を上げる。


そこには、心配そうに眉を寄せた、スーツ姿の男の人が立っていた。



「あ……わ、たしは、平気です!あの……大丈夫でしたか?」



何となく“わたし”を使った自分に驚きながら、ボクはその人の顔を覗き込んだ。



「俺は平気だよ。ちょっとびっくりしただけ。あ、これ、君のだよね?」



落ちた財布を拾おうと、男の人が床に手を伸ばした。


落ちた拍子にぱかっと開いたお財布からは、学生証が飛び出してる。



……ってか写真付きだし、これは見られたくないかも!



慌てて受け取ろうと手を伸ばすと、男の人は不思議そうな顔をした。



「仲程唯真……って、ゆい?」


「え?」