絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ

「……」
 なんでこんな目に……。
 今、香月の両手首は背の後ろで、足首は手首と同様、白い紐で束ねられている。
 何が起こったのだろう。確か、エスコートしてくれていた人が背後で電話に出る気配がした。その瞬間、停電がおき、口を誰かに抑えられたかと思うと、強い力で体を強く引っ張られた。
 そのまま暗い中を担ぎ出され、そこでようやく明かりはついたが、喋ることも逃げることもできずに、ある部屋のベッドに押さえつけられ、
「声を出すな。大人しくしろ」
 の一言で完全に脅され、されるがまんまの状態になったのである。
 腕と足はそれほど痛くはない。ベッドに横になっていると、多少窮屈ではあるが眠ることも不可能ではないくらいの状態だ。
 しかし内心は寝るとか寝ないとか、そんな心持ちではいられなかった。
 縛り上げた犯人、インテリ風の黒いスーツのメガネをかけた男は腕組をして、ベッドのすぐ隅に腰掛け、時々電話をしたり、とにかくじっとドアの外を見つめている。
 電話の声から、日本語を喋れるということは分かった。国籍は不明。見方によっては、日本語が上手な中国人にも見えるし、普通の日本人に見えなくもない。
 メガネをかけていて、表情も硬い中年男。だが、すぐに殺されるわけではないとしばらくたってから考え直し、ようやく香月は口を開いた。
「あの……」
「なんだ?」
 男の声は普通だ。ちらとこちらを見る。
「……私、いつか殺されるんですか?」
 とりあえず、それだけでも聞いておこう。それが、今の香月の中で一番重要な質問だ。
「……殺しはしないだろう」
 だろう……ということは、この見張りの男は下っ端でその権限はないと考えられる。
「……あの、私。ここへバースデイパーティの招待状をもらってきたんです。……何も、悪いことしてない……」
 男はこちらすら見ず、何も答えない。
「あの、教えてください。私、どうして今縛られているんですか?」
「人質だ」
「え……」
 予想外の答えに、香月は目をまん丸にさせた。
「ひと……じち……」
「リュウとはどんな関係だ?」
 初めて相手から話しかけてくれて少しほっとする。
「どんなって何も。今回会ったのが2度目で、どんな人かもよくは知りません。お金持ち……みたいだということは分かるけど」
「それだけか?」
「それだけです」
「どうやって知り合った?」
「友人の紹介です。幼馴染が偶然その人と知り合って、3人で食事をして。そしたらこの前パーティの招待状が届きました」
「あのBMはよく目立つ」