ライブが成功だったかは、客の顔を見ればわかる。





そう教えてくれたのはシュウジだった。





こんな時に思い出すなんて、アタシ、どれだけアイツのことが好きなんだよ。





「最後の曲です。アタシ達も新曲をやらしてください」





会場を埋めてくれた観客の中にアタシ達が目当てのヒトが何人いるかはわからない。





それでも、このライブを盛り上げてくれたことに感謝したい。





「アタシ達、ラズルダズルリリーはこれから未来に向かって走り続けたい。そんな思いで作った曲です。『Future Rockerz.』聴いてください」





うなるようなディストーションが会場を包み込む。





音楽はその場の空気を変えてしまえる力を持つんだと実感できる瞬間だ。





そのことを、髪を振り乱してドラムをたたくミクも、ターンテーブルを回しながらベースを弾くカエデも、





「太陽すら眠れないそんな夜に、僕は君を連れ出しに行った」





切ない歌声を響かせるリンナも、アイコンタクトで理解しているんだとわかる。





「希望を見失ってしまった君はトリカゴの天使、堕ちた僕は君を連れ去る」





もうそれだけで、この四人でバンドができて、演奏ができてよかったと思える。





「羽のない僕らは飛べない教室に閉じ込められた」





アタシ達は信頼し合える仲間だから。





「僕らを縛るすべてを断ち切って、君を連れて飛び立つよ」





そしてダウンロードの結果が発表された。





「僕らは終わらない夜の住人、飛べない教室から逃げ出して」





結果はラッドナクスの勝利だった。





「星のない屋上から飛び立つよ、空のプラネタリウムに未来を描いて」





勝てないことは、わかっていた。





「きっと誰もがエゴイスト、他人の幸せを願えばいいと思ってる」





キレイゴトだけじゃない。





「僕らに必要なのはそんなヴィジョンなんかじゃない」





ズルい方法も使った。





「僕がほしいのは君との幸せ、どんなにみじめな生き方だったとしても君と一緒なら何もいらない」





それでも勝てなかったのは、アタシ達の力不足だ。





「だってそれが未来の幸せだったはずだから」





ステージの上で、これまでにないくらい大泣きするアタシ達をハルカさん達は抱きしめてくれた。





「だから僕は明日のために声をからして歌ってる」





いつも強気なリカがもらい泣きしていて、アタシはまた泣いた。





「僕ら、Future Rockerz」





その後のラッドナクスのライブはほんとうに盛り上がっていた。





「たとえ希望も夢もなくしたとしても」





彼女達に負けたのなら、悔しくない。





「僕が君の光になるよ」





それは、嘘(うそ)だ。





「歌え、Future Rockerz」





正直、悔しい。





「明日のナミダも僕がすくってあげる」





勝てないかもと、負けるかもと思っていても、一つも誰も口にしなかったのはその自信があったからだ。





「君が笑顔ならそれでいい」





アタシ達なら勝てるって、勝つんだって信じたかったからだ。





「だから、Future Rockerz」





だってアタシ達は、最強のガールズバンドなんだから。





「ただ真っ直ぐに、光あれ。Future Rockerz」





ラッドナクスのライブが終わりを迎える頃、小塚マリコが舞台袖で見ていたアタシの隣に立った。





「エル、見えてる? これが現実だよ」





そう言った横顔は、点滅するライトに照らされて笑っているようにも見えた。





「あそこに立てるのは、その音楽に責任感と覚悟を持てるヒトだけ」





ゆっくりと彼女が私を見た。





「それでも、CDデビューする責任感と覚悟はある?」





普通の母親だったら、こんな時に何て言うだろう。





がんばったねとかよくやったねとかだろうか。





「もちろん。見ててよ。お母さん」





そんなことはどうだっていい。





「負けんなよ。エル」





アタシの母親はそんなことを言わない。





いつだって、アタシの前に立ちはだかる『壁』なのだから。





「そうだ。前から聞きたかったんだけど、サクリファイスは再結成しないの?」





「再結成? しないかな。私とユキコは裏方だし、サヤカは問題ないけどコトコさんと陸は主婦だからな」





「陸さんがしたいって言ったら?」





「ーーーその時は、やってもいいかな。ただし、陸はダイエットからだけどね」





その母親の笑顔はキラキラしていて、アタシ達も年を取った時にこんなふうに笑えたらと、心から思った。