シュウジのメッセージを何度も何度も読み返している間に、アタシのいる公園はすっかり夜の闇に覆われていた。





ずっと頭の中で響いていたのは小塚マリコからギターをもらった時に彼女が弾いてくれた曲だった。





サクリファイスの幻のメジャーデビュー曲で、そしてアタシ達ラズルダズルリリーのデビューシングルになる曲。





どうしてだろう。





すごく悲しいのに、この曲を早く歌いたい。





こんな感覚は初めてだ。





明日が、未来がすごく楽しみ。





もう今、この瞬間がすごくドキドキする。





アタシは急いでカエデのマンションに戻るとドアを開けた。






「ミク! カエデ! リンナ!」





アタシがリビングに入ると、リンナとカエデがテレビを見ていた。





テレビの中では、アタシが実家に入っていくところが映されていた。





「エルさん、おかえりなさい。もうすぐご飯できますよ」





キッチンからのミクの声に気付いたカエデがすぐにTVを消した。





「あれ? 今回は帰ってくるの早かったね」





何事もなかったようにソファにすわるカエデが笑った。





「うん。父親と話してきたよ。それから、小塚さんとも」





リンナは何も言わずアタシを見ていた。





「リンナ。アタシ達、お母さん達のお腹の中で一緒にステージに立ってたんだって」





「どういうこと―――」





「サクリファイスの解散ライブの時、妊娠してたのは陸さんだけじゃなくて、小塚さんも妊娠してたんだ」





「もしかして、それが解散の原因?」





「ううん。違うって、二人とも言ってた。ただ、そのおかげでアタシ達はここにいるんだよ」





アタシがそう言うと、リンナはじっとアタシを見つめ、微笑んだ。





「つくづくワタシ達はサクリファイスに縁があるみたいだね」





その笑顔とその言葉を、アタシは覚えている。





半年前、アタシ達はバラバラだった。





そんな時、大画面でリンナのCMが初公開された日、路上で歌っているアタシの前に現れたリンナが言った。





あの頃とは状況が全く違う。





リンナも、アタシも、サクリファイスのメンバーの娘で、





「そうだね。………うん。そうだった」





今はサクリファイスの小塚マリコにプロデュースしてもらえることになった。





「みんなに報告があるんだ。ダウンロードの結果が出るまでのあと三日、最後の悪あがきしようと思う」





ミクが、カエデが、リンナがアタシを見ている。