18年も経って、オトナだと思っていた目の前の母親という女性が何も飾らず素直な感情で父親に対する愚痴をしゃべりたいようにしゃべっている。
「あれ? 何で笑ってるの?」
話を聞きながら笑いをこらえていたアタシを小塚マリコが前を向きながらチラチラと危なげに見ていた。
「前向いて、お母さん。危ないよ」
「ああ、はいはい」
思えばギターをもらった時、彼女は母親としての務めを果たそうとしていたのかもしれない。
当たり前に与えられるはずのモノではなくて、小塚マリコだからこそ渡せる、渡して意味のある贈り物。
アタシのこれまでの短い人生は、大事な時にギターをもらう人生だった。
初めはシュウジに黒いギブソンを、その次は学祭直前にシュウジからサーフグリーンのデューセンバーグ。
そしてこの前は小塚マリコからテレキャスのシンライン・デラックス。
それぞれのギターにそれぞれの思いが込められていた。
だからアタシはその思いに応えなければいけない。
「お母さん―――小塚さん、アタシ達にサクリファイスの曲を演奏させてください」
彼女の横顔は黙っていた。
「今度のテレビの生放送で弾かせてほしい」
ふと彼女の口元が緩んだ。
「わかった。どの曲でもいいから弾いていいよ」
「ありがとう。それともう一つ、いいかな?」
「ん? この際、何でもどうぞ」
「ギターをくれた時に弾いてくれた曲、あれも弾きたい」
少し考えたのか間があって、
「あれか………」
小塚マリコは小さく言った。
「あの曲はさ、解散がなければリリースする予定だった、サクリファイスのメジャーファーストシングルだったんだよね」
東京に夕暮れが近付いていた。
目の前には西日に照らされた都心のビルが並んでいる。
「つまり、まだ誰も聞いたことがない曲」
その光景にあの曲は似合っていた。
「気に入った? あれ」
寂しい夕暮れの曲じゃなくて、
「ラズルダズルリリーの、ファーストシングルにしようか?」
夜が来るのが楽しくなるような、明日を迎えることが待ちきれない。
そんなメロディ。
「―――うん。そのために、ライブまでのあと三日。やれることは全部やる。よろしく………お願いします。小塚さん」
「わかった。ウチら親子が最強なところ、見せてやろう」
笑いながらお母さんは笑った。
「あれ? 何で笑ってるの?」
話を聞きながら笑いをこらえていたアタシを小塚マリコが前を向きながらチラチラと危なげに見ていた。
「前向いて、お母さん。危ないよ」
「ああ、はいはい」
思えばギターをもらった時、彼女は母親としての務めを果たそうとしていたのかもしれない。
当たり前に与えられるはずのモノではなくて、小塚マリコだからこそ渡せる、渡して意味のある贈り物。
アタシのこれまでの短い人生は、大事な時にギターをもらう人生だった。
初めはシュウジに黒いギブソンを、その次は学祭直前にシュウジからサーフグリーンのデューセンバーグ。
そしてこの前は小塚マリコからテレキャスのシンライン・デラックス。
それぞれのギターにそれぞれの思いが込められていた。
だからアタシはその思いに応えなければいけない。
「お母さん―――小塚さん、アタシ達にサクリファイスの曲を演奏させてください」
彼女の横顔は黙っていた。
「今度のテレビの生放送で弾かせてほしい」
ふと彼女の口元が緩んだ。
「わかった。どの曲でもいいから弾いていいよ」
「ありがとう。それともう一つ、いいかな?」
「ん? この際、何でもどうぞ」
「ギターをくれた時に弾いてくれた曲、あれも弾きたい」
少し考えたのか間があって、
「あれか………」
小塚マリコは小さく言った。
「あの曲はさ、解散がなければリリースする予定だった、サクリファイスのメジャーファーストシングルだったんだよね」
東京に夕暮れが近付いていた。
目の前には西日に照らされた都心のビルが並んでいる。
「つまり、まだ誰も聞いたことがない曲」
その光景にあの曲は似合っていた。
「気に入った? あれ」
寂しい夕暮れの曲じゃなくて、
「ラズルダズルリリーの、ファーストシングルにしようか?」
夜が来るのが楽しくなるような、明日を迎えることが待ちきれない。
そんなメロディ。
「―――うん。そのために、ライブまでのあと三日。やれることは全部やる。よろしく………お願いします。小塚さん」
「わかった。ウチら親子が最強なところ、見せてやろう」
笑いながらお母さんは笑った。

