店の経営が安定し、アキラを雇ってから2ヶ月、どこで調べたのか、本人の言っていたとおり、仕込みの終わりに合わせ、アキラの出待ちをする女子達がちらほらと現れるようになったその頃、アキラど同様の風体をした優男が、女連れで現れた。
「アキラ、お前の知り合いなら早く上がってもいいぞ。」
「ケイジさん、あれオレの対バンっすよ。つるんだらすぐネットで騒がれるんで、パスでお願いしますよ。」
「おう、お前そんなに人気あんのか?確かに俺が見てもイケメンだが。」
「あー。人間演出っすよ。ケイジさんも若い時やってりゃあ女食い放題だったのに。」
アキラは俺のことをいつのまにか名前で呼んでいた。
「悪いけれど産まれながらの女難で、全部ババ引く自信あるぜ…。」
「オレらの追っかけなんて、全部ババみたいなもんで、家庭にも学校にも居場所がない奴らばっかし。でも、そんな女だから可愛いんですよ。米しょってくる女もいますしね…。そこまで貧しくねーっ…いや有難いな…。」
「おい、オッサンに分かったような事言うんじゃねえ。」
他愛のないやりとりをしているさなか、店外の優男とぱっとみはすっぱな女の怒号が響き渡る。
「てめえ!まだファック隊と寝てんのかよ!?アタシだけっつっただろ!このクズが!」
「大声だすなよ、ヒロミ。お前が本命なんだから…」
「本命とかそんなんじゃねえよ。付き合ったら一人に絞れよ、テメー!」
「言ったな…!お前こそ好きなメン端から食って、ライブいきゃ穴兄弟ばっかだろよ、この売女が!」
「それが悪いか、狙ったメンは必ず落とすのが勲章だろ!二度とギター弾けねえように、指ぶっつぶしてやるよ!」
女は絶叫すると、立てかけていたギターケースをつかみ、遠心力をめいっぱいにかけて優男の右脇に叩きつける。小さいながら歪んだ弦の音が打撃音とともに響く。
「どうせアタシが買ってやったモンだろ!ブッ壊そうとアタシの勝手だろ!」
ヒステリーが疾走してもう、とりとめもない。
さすがに見かねたのか、手を上げようとする優男の仲裁に入る。
「ヒサシ、マジになんなって。」
気持ちの抑えようのない優男は、アキラの制止を振り切って女の頬をはたく。
「女を殴ったね!消えろよ!消えろ!」
怒号が号泣に変わり、優男は手に負えないとばかりにきびすを返す。
「落ち着いて。誰か呼んで送らせるから。ほら、オレこの後ライブだし、見に来てもいいぜ。」
「好きなメンのライブにしか行かない主義でね。そう…ハクエイ連れて来てよ!アタシこの店でまっててやるからさ!」
「無茶言うな!マスターにも迷惑がかかんだろ、聞き分けのねえこと言うんじゃねえよ」
ひと悶着もふた悶着もついて、ついにはアキラが根を上げた…。
「ケイジさん、ライブ間に合わなくなるんで、終わったら迎えにくるっすよ。」